秘密保全に関する法制の整備に対する意見

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     秘密保全に関する法制の整備に対する意見

     

    20111124

     

    ムスリム違法捜査弁護団                                            

     弁護士 梓澤 和幸(団長)                                      

    弁護士 上柳 敏郎、同 西岡 弘之、同 難波 満、同 岩井

       同 山本 志都、同 高橋 右京、同 健一郎

    福田 健治、同 井桁 大介、同 小松 圭介

     

     

      当弁護団は、いわゆる公安テロ情報流出事件(以下「本事件」という。)の被害者らが国及び東京都に対して提起している国家賠償請求訴訟(以下「本件訴訟」という。)の原告ら代理人であるところ、このような立場から、「秘密保全のための法制の在り方について(報告書)」(以下「本報告書」という。)に対し、次のとおり意見を述べる。

     

     

    1  意見の趣旨 

    1  本件訴訟において、国及び東京都が警察からのデータの流出について認否をしないと陳述しているにもかかわらず、本報告書においては、本事件が「国際テロ対策に係るデータのインターネット上への掲出事案」として「主要な情報漏えい事件等の概要」に掲げられ、秘密保全法制の必要性を裏付ける事案とされていることに抗議する。


    2  本事件では、警察による情報収集活動の名のもと、イスラム教に関係する個人、団体等に関する個人情報が人権を侵害する態様で違法に収集・保管されていたものであり、秘密保全法制がこのような行政機関による人権侵害の秘匿を容易にすることに懸念する。


    3  本事件発生後、警察が情報の流出について実効的措置をとることなく漫然と放置したのみならず、現在も事案の解明や被害者らに対する救済が何らされていないことからすれば、秘密保全法制に関する議論を行うより以前に、速やかに行政機関からの情報の流出による被害者を救済するための制度を整備するべきである。

      

    2  意見の理由

    本事件が秘密保全法制の必要性を裏付ける事案とされていることの不当性について

      本報告書においては、本事件が、「国際テロ対策に係るデータのインターネット上への掲出事案」として「主要な情報漏えい事件等の概要」に掲げられた上、「国際テロ対策に係るデータがインターネット上へ掲出されたもの。当該データには、警察職員が取り扱った蓋然性が高い情報が含まれていることが認められた」として、秘密保全法制の必要性を裏付ける事案とされている。

     しかし、本件訴訟においては、国及び東京都は、データが警察から流出したか否かについて、「警察による情報収集活動の具体的な内容を個別に明らかにすることは相当でない」、「認否することにより公務上の秘密が明らかになり、公務に支障が生じるおそれがある」などとして、認否をしないと陳述している。

     このような国及び東京都の不当な訴訟追行の態度に鑑みれば、政府においては、秘密保全法制の法案化作業を進めるべく、本事件を秘密保全法制の必要性を裏付ける事案とすることは許されないものであって、当弁護団は、このように本事件が利用されることに強く抗議する。

      

    2  秘密保全法制が行政機関による人権侵害の秘匿を容易にするおそれがあることについて

      本事件においては、警視庁及び警察庁が、イスラム教に関係する個人、団体等について、横断的・網羅的・組織的・機械的・体系的に監視し、その個人情報を人権を侵害する態様で違法に収集し、収集した個人情報を違法にリスト化して保管していたことが判明している。

     しかし、本報告書における秘密法制法制については、「特別秘密」の概念自体が広範かつ不明確である上、「国の安全」・「外交」に加えて「公共の安全及び秩序の維持」までが特別秘密として取り扱うべき事項とされている。

     さらに、秘密の指定を行う主体については、秘密を取扱う行政機関自体とされていることからすれば、行政機関の恣意的な判断によって秘密が指定されるおそれがあるといわざるを得ない。

     このことは、秘密保全法制によって、本事件のような行政機関による人権侵害が容易に秘匿されることになりかねないことを意味するものであって、当弁護団は強い懸念を有するものである。

     

    3  速やかに行政機関からの情報の流出の被害者を救済するための制度を整備すべきであることについて

      本事件において、警視庁及び警察庁は、データが大量に流出した事実を認識しながら、当該データが警視庁及び警察庁において作成・管理していた文書であることを認めず、実効的措置をとることなく漫然と放置して被害を拡大させたものである。

     その上、警視庁及び警察中においては、事件発生後約1年を経過しようとしている現在においても、事案の解明や被害者らに対する救済は何らされていないところ、国及び東京都は、本件訴訟においては、警察からのデータの流出について認否をしないという陳述をするに至っている。

     このような状況に照らせば、政府においては、秘密保全法制に関する議論を行うより以前に、本事件について速やかに事案を解明し、被害者らを救済するための措置をとるとともに、行政機関からの情報の流出による被害者を救済するための制度を整備するべきである。

    以 上

     


    公安テロ情報流出事件のインパクト

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       公安テロ情報流出事件のインパクト

      公安テロ情報流出被害弁護団 
      弁護士 河健一郎
      弁護士 福田 健治

      ※本稿は「出版ニュース 2011年2月上旬号」に巻頭論考として掲載された記事を、出版ニュース社の許諾を得て転載したものです。本ウェブサイトに掲載してきた論考との内容の重複を含みます。


      1.未曾有の大規模流出と無責任な警視庁の対応
       昨年の10月28日、警視庁公安部外事三課のものとみられる捜査資料114点がインターネット上に流出した。114点はファイル交換ソフトのWinnyを通じて全世界に拡散し、20を超える国と地域の1万台以上のパソコンにダウンロードされたという。
      流出した資料の中には、捜査に協力してきた一般人の住所・氏名はもとより、外見的特徴や入出国履歴、顔写真、家族の情報や日常行動など、詳細なプライバシー情報が含まれていた。捜査に協力してきた一般人の多くは国内外のイスラム教徒であり、その国籍も、チュニジア、アルジェリア、モロッコ、ヨルダン、パキスタンといったイスラム国をはじめ、ニュージーランドや、日本国籍の者の情報も含まれるなど、多岐にわたっていた。
      プライバシー情報、特に顔写真や氏名、電話番号等を含む詳細な個人特定情報、本籍地、信仰、前科の有無や詳細、行動実態などのセンシティブ情報が流出したこと自体も問題だが、更に深刻なのは、テロ捜査への協力を要請するため、捜査官が接触しようとした対象者にすぎない彼ら自身が、「テロリスト」容疑者として記載されており、捜査対象扱いされていることである。プライバシー侵害も問題であると同時に、重大な名誉毀損の問題も引き起こしているのだ。
       流出から2ヶ月が経った昨年12月24日、ようやく警視庁は「本件データには、警察職員が取り扱った蓋然性が高い情報が含まれていると認められた」という曖昧な表現 で、事実関係を認めた。もっとも、調査状況の説明を行った警視庁の桜沢健一警務部参事官が会見で頭を下げたものの、流出した情報の管理責任者であったはずの池田克彦警視総監、警察行政全体の管理者である岡崎トミ子国家公安委員長、安藤隆春警察庁長官はいずれも、口頭で遺憾の意を表したのみであり、そもそも弁護団の把握する限り、情報流出の被害者に対する謝罪も説明も、現時点(1月13日)に至るまで一切なされていない。

      2.第三書館の出版が引き起こした二次被害、三次被害
       警視庁や政府が情報流出を認めず事態を放置し続けた2ヶ月の間に、捜査資料114点がそのまま本にして出版された。これが第三書館による『流出「公安テロ情報」全データ』と題する出版物である。第三書館は流出情報に含まれる、一般私人への深刻な人権侵害部分に全く配慮しないまま、まるごと本にして掲載したことで、被害者に深刻な二次被害をもたらした。
       言うまでもなく、情報は受け手に到達して初めて情報としての意味を持つ。
       一定の技術を持つ者がインターネット上に存在するファイルを取得しうるという状態と、印刷・製本して出版物の形にし、書店の店頭に並べて一般人の誰もが手に取れる状態に置くということには、質的に大きな違いがある。弁護団は第三書館に対して数度にわたって、私人のプライバシー部分への配慮を行うまで出版を控えるよう申入れを行ったが、後に詳述する様に第三書館は出版を強行した。第三書館の出版強行行為によって、被害者たちの一般生活上の被害はより甚大なものとなった。
       第三書館の出版物には誤植・乱丁等があった。その結果として自己の名前で別人の情報を載せられてしまうケースが発生し、三次被害まで生ずるに至っている。
       以下、掲載誌の読者にとってより関心の高いであろう出版差止の件について紙幅を割き、その上で、より本質的な問題であるところの流出資料の内容面の分析に触れていきたい。
       
      3.第三書館による出版に公益性はあるのか
       第三書館が前記の書籍を出版したのは、昨年11月末のことである。この本は、公安からの流出資料の「全データ」を改変することなく収録していると謳っている(実際には、編集過程でいくつかの誤植・乱丁等が発生しており、編集側が誇るほどの正確な流出ファイルのコピーにはなっていないことは前述のとおり)。
      筆者らは、出版直後に掲載者からの相談を受け、まずは書籍が書店に並ぶのを阻止するため、11月27日、出版禁止の仮処分を申立て、翌28日、東京地裁は出版禁止命令を発令した。
       表現の自由の重要性に鑑み、プライバシー侵害を理由とする出版の事前差止には、厳格な要件が必要とされる。東京地裁は、本件書籍に含まれる情報は、〇篆佑慮朕余霾鵑任△辰童共の利害に関する事項とは言えず、公益目的でないことも明かであり、またK楫鐔饑劼亡泙泙譴觚朕余霾鵑公開されれば掲載者は重大で回復不可能な損害を被る恐れがあるとして、差し止めを認めた。これまでの名誉毀損・プライバシー侵害に基づく裁判例を踏まえた、穏当な判断であると言えよう。
       これに対して、第三書館側は、本件書籍の公刊には公益性があると主張している。なぜなら、そもそも書籍を公刊した目的は「公安警察による違法捜査の実態を明らかにすること」にあるからだというのだが、そのために個人情報までをも掲載しなければならない必然性は何ら存在しない。単なる編集の手抜きを糊塗しているとしかみえない。
      第三書館は、裁判所に提出した陳述書や第2版のあとがきにおいては、わざわざ個人情報を削除せず掲載した理由として、2点を挙げている。
       一つ目は、被害者に対して、違法捜査の対象となっていることを知らせることだという。しかし、被害者への注意喚起のためであれば、ただ単に流出ファイルを被害者に送付すれば済むことである(実際にそのために必要な被害者の住所までご丁寧に流出しているのだ)。
       二つ目の理由は、被害者が警察に対して抗議行動を取る際の書証として役立ててほしいからだという。残念ながら、仮に被害者が国に対して国家賠償を請求するとして、証拠となるのは流出データそのものであって、この書籍ではない。流出データと書籍の間に齟齬があることは上記の通りだし、そもそも書籍の元となったデータの入手方法の開示を第三書館が拒んでいる以上、この書籍は作成経緯が不明な怪しい資料でしかない。せいぜい、警視庁からの流出が、出版という二次被害を生み重大な損害につながったことの証拠になるぐらいだろう。
       結局、第三書館が主張する個人情報掲載の「公益性」は、いずれにも首をかしげざるを得ない。言うまでもなく、目的は手段を正当化しないのである。流出文書の一部を出版することに公益性が認められたとしても、そのために、私人の個人情報までを晒し上げ、深刻な人権侵害をもたらすような手段を取る必要はないし、相当性もない。全体の利害のためであったとしても一人一人の個人の尊厳を踏みにじるような行為は許されないというのが近代憲法の出発点である。第三書館があくまで目的が手段を正当化すると強弁したときに、後に述べるような公安警察のやりくちと、どのような違いが見いだせるのだろうか。

      4.裁判所の命令を無視する第三書館
       ところで、ここのところ、第三書館の今回の出版行為に言及する文章の中に、看過することのできない事実誤認が含まれているので、指摘しておきたい。
      例えば、小規模出版社で構成される出版流通対策協議会は、12月24日付で、「『流出「公安テロ情報」全データ』出版についての見解」と題する論評を発表している。この中には、次のような言及がある。
       (初版2000部の発行)に対して、国内に居住するイスラム教徒2名が、該当箇所(4ページ半)を抹消しないかぎり出版を禁ずる旨の申し立てを東京地裁に行い、11月29日に発令された。これを受けて第三書館は、該当箇所を抹消して、3000部を重版したという。その後、他のイスラム教徒7名も、出版停止の仮処分申請(数十ページとカバーなどの抹消)し、12月10日に発令された。この間、被害弁護団も結成された。(強調は筆者)
       これだけだと、第三書館は、少なくとも裁判所の仮処分命令には従って出版活動を行っているかのように読める。聞いたところによれば、第三書館はその旨の説明を関係者に行っているようだ。同様の記載は、大手新聞の記事にも見られた。
      しかし、第三書館の説明は虚偽である。第三書館は、弁護人からの申入れを無視しただけでなく、裁判所の命令をも無視して、印刷した本書を売り切るという暴挙に出ているのである。
       第2版の出版を禁じる仮処分決定が最初に発令されたのは、12月10日ではなく12月3日であり、これが第三書館に送達されたのは12月6日である。一方、第2版の出版日は、奥付によれば12月8日であり、「版元ドットコム」を通じた注文の第三書館による発送は12月13日から16日にかけて行われている。
       したがって、第2版の出版・発送は、まごうことなき仮処分命令違反であり、第2版をめぐる第三書館の対応は、司法制度に対する重大な挑戦である。
      この間、第三書館の北川社長は、出版の公益性を主張して仮処分命令を批判し、命令に対する異議申立てを検討している旨を言明している。しかしながら、異議申立てがなされたのは、第三書館が第2版を売り切り、個人情報を黒塗りした第3版を出版した後である12月28日だ。
       すなわち、第三書館は、異議申立てという正当な法的手続を取ることなく、裁判所の命令に反することを知りながら、第2版3000部を売り切り、数百万円の売上を上げたのである。ところが、出版・流通関係者や報道関係者に対しては、あたかも第2版の出版後に2度目の仮処分命令が発令されたかのごとき説明を繰り返し、自らの命令違反の事実を隠蔽している。
      出版の差止めは表現の自由に対する重大な制約である。その是非については大いに議論されるべきであり、我々も論じていくつもりである。しかしながら、裁判所の命令を無視し、与えられた異議申立権も行使することなく、手元の在庫を売り抜け多額の利益を上げながら、これを隠蔽して今回の件を論じる第三書館の対応は、極めて遺憾であるといわざるを得ない。

      5.白日の下に晒された公安の違法捜査の実態
       話を資料の内容の分析に移そう。流出資料には、日本の公安当局がイスラム教徒を潜在的なテロリストだと決めつけ、厳重な監視や調査の対象にしていることが記されている。具体的に指摘しよう。
       例えば平成20年6月13日付の「サミット本番に向けた首都圏情勢と対策」と題する文章の中には、「イスラム・コミュニティーがテロのインフラとなり得ることから、イスラム諸国人の実態把握率向上を目的としてポイント制による特別表彰を実施しています。これまでに約12,677人(H20.5.31現在)(都内 のイスラム諸国外国人登録数14,254の約89%)を把握しデータ化しています。」と記載され、調査員に競わせるように全件調査を行っていることが明らかとなった。また、「解明作業進捗状況」と題する書面では、モスクに出入りする全員を監視対象とし、尾行等による面割率が61%であったとの報告を上げ、 モスクに出入りするだけで監視対象とするという、公安捜査の実態が浮き彫りとなっている。
       イスラム教徒であるというだけでテロ捜査の対象にするということ自体、信教の自由の侵害であり、重大な人権侵害といえるが、問題はこれに留まらない。流出資料によれば、主要な都市銀行やレンタカー会社、ホテルなどが、公安部に対して令状なしでの情報提供に応じているというのである。また、大手都市銀行が、中東の某国大使館の職員全員の詳細な銀行取引履歴を、公安部に提供していた内容も記載されている。
       確かに刑事訴訟法に基づく捜査事項照会という制度はあるが、無制約に行使することが許されるわけではなく、また、提供される情報も犯罪捜査に必要な範囲に限定されるはずである。同様の情報収集は、公安捜査一般において行われていると考えるべきだろう。そこに示されている事実は、肥大化した警察機構が、歯止めのきかぬままにひたすらプライバシー情報を収拾・蓄積・管理しているという、衝撃的な現実である。
       更に、こうした違法捜査は、任意での情報提出要求に留まらず、強制捜査まで用いて行われていることが分かった。流出資料の中には、「何か口実があれば、逮捕や捜索などの強制捜査によって公安情報を取得するべし」との捜査方針が明確に記載されている。弁護団が調査した範囲でも、友人に携帯を買い与えたというだけで不法残留幇助の容疑で逮捕され、二十日間にわたって身体拘束され、その間に携帯電話やパソコンなど無関係の物品の捜査を受けた例が報告されている。押収された物品の解析は公安部が行い、イスラム教徒の間の人間関係の把握に用いたというのである。結局このケースでは逮捕された本人は起訴されることなく、勾留満期で無罪放免となったということであるから、完全な別件逮捕であり、違法な強制捜査と言わざるを得ない。
       流出資料を読み進めるほどに、暗澹たる気持ちをぬぐえない。「テロリスト」という言葉と関連付けられただけで、簡単に人権保障の枠組みが乗り越えられてしまうことに恐ろしさを感じるし、音もなく忍び寄るそうした権利侵害に、何らの歯止めがかからない状態には尚更強い危惧を覚える。
       公安捜査はその性質上、密行性、秘匿性が要求され、そもそも民主的統制が届きにくい構造にある。それだけに、法令順守の精神や、権力行使の抑制などの点で、配慮の上にも配慮を重ねる必要があるのではなかろうか。野放図に捜査権限が拡大し、イスラム教徒であるというだけで犯罪者扱いする現在のあり方が、長期的な意味で国益にかなうものとは到底思えない。今回の事件を契機に、公安捜査のそもそものあり方に、メスが入れられるべきではないだろうか。

      以 上


      第三書館の嘘

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        第三書館の嘘

         2010年12月27日
        公安テロ情報流出被害弁護団
        弁護士 福田健治


         今回の捜査情報流出被害の最大の元凶が、十分な情報管理を怠り、流出後もその責任を認めずに無為に2ヶ月を徒過させた警視庁にあることは間違いない。しかし同時に、流出した捜査情報をそのまま掲載した書籍『流出「公安テロ情報」全データ』を出版し、掲載対象者を不安と恐怖に陥れた出版社・第三書館の罪もまた、重い。
         我々弁護団は、情報流出の被害を拡大しプライバシー侵害と名誉毀損を深刻化させた第三書館に対し、出版を禁止する仮処分の発令を得てきたほか、12月24日には出版の差止めと損害賠償を求める本訴を提起したことは、当ブログでも報告している通りである。
         ところで、ここのところ、第三書館の今回の出版行為に言及する文章の中に、看過することのできない事実誤認が含まれているので、指摘しておきたい。
         例えば、小規模出版社で構成される出版流通対策協議会は、12月24日付で、「『流出「公安テロ情報」全データ』出版についての見解」と題する論評を発表している。この中には、次のような言及がある。
        (初版2000部の発行)に対して、国内に居住するイスラム教徒2名が、該当箇所(4ページ半)を抹消しないかぎり出版を禁ずる旨の申し立てを東京地裁に行い、11月29日に発令された。これを受けて第三書館は、該当箇所を抹消して、3000部を重版したという。その後、他のイスラム教徒7名も、出版停止の仮処分申請(数十ページとカバーなどの抹消)し、12月10日に発令された。この間、被害弁護団も結成された。(強調は筆者)
         これだけだと、第三書館は、少なくとも裁判所の仮処分命令には従って出版活動を行っているかのように読める。聞いたところによれば、第三書館はその旨の説明を関係者に行っているようだ。同様の記載は、大手新聞の記事にも見られた。
         しかし、第三書館の説明は虚偽である。第三書館は、裁判所の命令を無視して、印刷した本書を売り切るという暴挙に出ているのである。
         命令違反は、初版と第2版の双方で生じている。
         初版の出版を禁じる仮処分決定が第三書館に送達されたのは11月30日である。ところが、12月2日夜、第三書館と取次を通さず直接取引を行っている某書店の店員は、「初版108冊が明日入荷する予定である。」と述べている。したがって、第三書館は、初版の出版禁止命令の存在を知りながら、出荷を継続していた疑いがある。
         さらに問題なのが第2版出版の経緯である。第2版の出版を禁じる仮処分決定が最初に発令されたのは、12月3日であり、これが第三書館に送達されたのは12月6日である。
         一方、第2版の出版日は、奥付によれば12月8日であり、版元ドットコムを通じた注文の第三書館による発送は12月13日から16日にかけて行われている。
         したがって、第2版の出版・発送は、まごうことなき仮処分命令違反であり、第2版をめぐる第三書館の対応は、司法制度に対する重大な挑戦である。
         この間、第三書館の北川社長は、出版の公益性を主張して仮処分命令を批判し、命令に対する異議申立てを検討している旨を言明している。しかしながら、異議申立ては今日現在なされていない。
         すなわち、第三書館は、異議申立てという正当な法的手続を取ることなく、裁判所の命令に反することを知りながら、初版・第2版合計5000部を売り切り、1000万円の売上を上げたのである。ところが、出版・流通関係者や報道関係者に対しては、あたかも第2版の出版後に2度目の仮処分命令が発令されたかのごとき説明を繰り返し、自らの命令違反の事実を隠蔽している。
         出版の差止めは表現の自由に対する重大な制約である。その是非については大いに議論されるべきであり、我々も論じていくつもりである。しかしながら、裁判所の命令を無視し、与えられた異議申立て権も行使することなく、手元の在庫を売り抜け多額の利益を上げながら、これを隠蔽して今回の件を論じる第三書館の対応を、我々は許すことができない。
         今回の出版行為の是非を論じる諸氏におかれては、少なくとも、第三書館による仮処分命令違反を含む事態の全体像を踏まえた上で論陣を張っていただくよう、切に願っている。


        これで幕引きではない −公安捜査の闇の解明を−

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          これで幕引きではない −公安捜査の闇の解明を−

          公安テロ情報流出被害弁護団
          弁護士 河健一郎

           
          10月28日、警視庁公安部外事三課のものとみられる捜査資料114点がインターネット上に流出した。流出した資料の中には、捜査に協力してきた一般人(主に日本在住のイスラム教徒)の住所・氏名はもとより、外見的特徴や入出国履歴、顔写真、家族の情報や日常行動など、詳細なプライバシー情報が含まれていたばかりか、捜査に協力してきたはずの彼ら自身が「テロリスト」容疑者として記載されるなど、重大な名誉侵害がなされていた。

          流出から二カ月経ってようやく、警視庁はこの件に対して「本件データには、警察職員が取り扱った蓋然性が高い情報が含まれていると認められた」という曖昧な表現で、事実関係を認めた。しかしこの間、流出した情報の個人情報部分に配慮しないまま、まるごと本にする出版社(第三書館)が現れ、出版された本では編集ミスで別人の情報を載せられてしまうケースが発生するなど、二次被害、三次被害が拡大している。出版社は裁判所による出版禁止の仮処分命令を無視して書籍を店頭に並べ、被害者である多くの一般市民たちは、好奇の目にさらされ、いつ誰に報復されるかわからない不安な日々を過ごしている。

          もっとも、この問題は、単に警視庁の情報管理体制の甘さや、便乗商法を行う出版社の低劣さを指摘して済む問題ではない。流出資料を丁寧に読むと、公安当局のイスラム教徒敵視政策や、違法捜査の実態が如実に記載されていて、問題の本質が、より根深いものであることに気づかされる。以下、流出資料の内容に触れながら、公安警察の問題点を整理してみたい。

          今回の問題は、大きく3つの段階に分けられると私は考える。

          第一がイスラム教徒をいたずらに敵視した公安の違法捜査の問題性。

          第二が厳重に管理されるべき公安情報が一度に大量に流出した情報管理の問題性。

          第三が流出発覚から二カ月近く経って、だれも責任を取らず、認めることもせず、二次被害、三次被害を拡大させた警視庁と政治の無為無策の問題性である。

          第二、第三の問題は既に多くのところで指摘されていることなので、ここではより本質的で根の深い、第一の問題について指摘しておきたい。

          流出資料を仔細に読み進めると、驚くべきことが分かる。日本の公安当局はイスラム教徒であるというだけの理由で、潜在的なテロリストだと決めつけ、厳重な監視や調査の対象にしているのだ。

          平成20年6月13日付の「サミット本番に向けた首都圏情勢と対策」と題する文章の中には、「イスラム・コミュニティーがテロのインフラとなり得ることから、イスラム諸国人の実態把握率向上を目的としてポイント制による特別表彰を実施しています。これまでに約12,677人(H20.5.31現在)(都内のイスラム諸国外国人登録数14,254の約89%)を把握しデータ化しています。」と記載され、調査員に競わせるように全件調査を行っていることが明らかとなった。また、「解明作業進捗状況」と題する書面では、モスクに出入りする全員を監視対象とし、尾行等による面割率が61%であったとの報告を上げ、モスクに出入りするだけで監視対象とするという、公安捜査の実態が浮き彫りとなっている。

          イスラム教徒であるというだけでテロ捜査の対象にするということ自体、信教の自由の侵害であり、重大な人権侵害といえるが、問題はこれに留まらない。

          流出資料によれば、主要な都市銀行やレンタカー会社、ホテルなどが、公安部に対して令状なしでの情報提供に応じているというのだ。更には、ある大手都市銀行が、中東の某国大使館の職員全員の詳細な銀行取引履歴を、公安部に提供していた内容も記載されている。

          こうした違法捜査は強制捜査にも及んでいる。何か口実があれば、逮捕や捜索などの強制捜査によって公安情報を取得するべし、との捜査方針が文書によって明確に打ち出されており、実際に、友人に携帯を買い与えたというだけで不法残留幇助の容疑で逮捕され、二十日間にわたって身体拘束され、その間に携帯電話やパソコンなど無関係の物品の捜査を受けた例も報告されている。完全な別件逮捕で、押収された物品の解析は公安部が行い、イスラム教徒の間の人間関係の把握に用いたという。違法な強制捜査と言わざるを得ない。この人物は結局起訴されることもなく、無罪放免となった。

          流出資料を読み進めるほどに、暗澹たる気持ちをぬぐえない。

          「テロリスト」という言葉と関連付けられただけで、簡単に人権保障の枠組みが乗り越えられてしまうことに恐ろしさを感じる。

          公安捜査はその性質上、密行性、秘匿性が要求され、結果として民主的統制が届きにくい構造にある。それだけに、法令順守の精神や、権力行使の抑制などの点で、配慮の上にも配慮を重ねる必要があるのではなかろうか。野放図に捜査権限が拡大し、イスラム教徒であるというだけで犯罪者扱いする現在のあり方が、長期的な意味で国益にかなうものとは到底思えない。今回の事件を契機に、公安捜査のそもそものあり方に、メスが入れられるべきではないだろうか。

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