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国家賠償請求:訴状(2/3)

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     第2 原告らの個人情報を収集する行為について
    1 外事第三課の人権侵害捜査の実態
     外事第三課は、警察庁の指揮・監督の下、何ら犯罪が発生していないにもかかわらず、‖腟模な個人情報の収集、▲皀好の継続的な監視、イスラムコミュニティの監視及び情報収集、ぅ譽鵐織ー会社・ホテル・金融機関・大学等からの個人・団体情報の収集により、原告らイスラム教徒を徹底した監視下に置いた上で、その個人情報を収集した(以下「本件情報収集活動」という)。 
      
    (1)大規模な個人情報の収集
     警視庁及び警察庁は、「イスラム諸国会議機構(OIC)の国籍を有する者及びその他の国籍を有するムスリム」の、国籍、氏名、生年月日、住所等を、横断的・網羅的・機械的・体系的に収集する作業を、大規模かつ組織的に実施していた(以下「ムスリムのリスト化」という。なお、ムスリムとはイスラム教徒のことである。甲1の1)。ムスリムのリスト化に際しては、外国人を雇用している企業・会社への定期訪問、イスラム諸国出身者が経営する店舗への「巡回連絡」も実施されていた。
     ムスリムのリスト化については、「イスラム諸国人の実態把握率向上を目的としてポイント制による特別表彰」まで用意されており、平成20年5月31日現在において、「都内のイスラム諸国外国登録数14,254の約89%」にものぼる「約12,677人」の個人情報が把握され、データ化されていた(甲1の4)。ムスリムのリスト化は、その後、2008年7月に開催された北海道洞爺湖サミットにおけるテロ予防名目で規模を全国に広げて継続され、最終的に「サミットまでに、OIC諸国出身者約72,000人(把握率98%)を把握」するに至っている(甲1の5)。
     当該活動の特色は、情報収集対象者の選定がムスリムか否かのみであることにある。ムスリムでありさえすれば、犯歴の有無、犯罪の嫌疑の有無、犯罪を行う蓋然性があるか否か、又は犯罪を行う蓋然性のある団体に所属しているか否かとは全く無関係に、機械的に個人情報を収集されていた。
     収集された各ムスリムの個人情報は、履歴書様の形式等にまとめられ、体系的に管理されるに至っていた(甲1の11の1〜20、1の12)。

    (2)モスクの継続的な監視
     警視庁及び警察庁は、2008年6月23日以降、北海道洞爺湖サミットに伴う国際テロ対策として「モスク出入り者の不審動向」を発見するという名目で捜査員43名の「モスク班」を構成し、東京都内の各モスクについて「午前8時30分から日没後の礼拝が終了する午後7時30分を目処に拠点員、行確員(引用者注:「行確」とは行動確認のこと)を配置し、モスク動向の把握、モスクへの新規出入者及び不審者の発見把握」を行っていた(甲1の50、1の51)。
     また、同時期頃、同じく洞爺湖サミットにおけるテロ対策を名目として、愛知県下の主要モスクを、各モスク2人の捜査員が、1つのモスクについては午前10時頃より午後10時頃まで、1つのモスクについては24時間体制で監視し、延べ3639名のモスクへの出入りを把握するとともに、「行動確認を44回実施し」、彼らの同日の到着先である「没先等23件を確認」していた。なお、これらの活動によっても「不審者・不審動向の把握には」至っていない(甲1の55)。
     サミット終了後もモスクに対する網羅的・継続的な監視は継続され、同年9月のラマダーン(イスラム教における断食期間のこと)のモスク礼拝者及びイード・アル・フィトル(断食明けの祭のこと)への参加者を、東京都内の各モスク単位で数えあげていた(甲1の51。なお、甲1の51には、各参加人数について昨年比が記載されており、イード・アル・フィトルにおけるモスクへの監視が毎年実施されていることがわかる)。
     モスクは、イスラム教徒の中心的な宗教施設である。ムスリムは毎週金曜日にモスクに集まり、メッカに向けた礼拝を行う。モスクとは、ムスリム個々人が神に祈りを捧げる神聖な場であり、宗教教育の場であり、社会関係が醸成される場であり、精神的清浄さが求められる空間である。宗教施設としての公共性は有しているものの、誰もが出入りを許されているわけではない。捜査機関がモスクを定期的に監視し、個人の出入りを網羅的に把握することは、個々人のプライバシー侵害であることはもちろんのこと、イスラム教を信仰すること自体に対する圧迫といえる。
     監視対象とされたモスクについては、犯罪者の出入りが現認されたことも、犯罪者が出入りする蓋然性が認められたことも、ましてや犯罪者が出入りする具体的な危険性が認められたこともなかった。ただイスラム教徒が礼拝する施設であることのみを理由として、機械的・網羅的・横断的に、都内の主要なモスク全て、及び愛知県の主要なモスク2施設が捜査対象とされ、組織的・継続的に、大規模な情報収集活動がなされていた。
       
    (3)イスラムコミュニティの監視及び情報収集 
     警視庁及び警察庁は、前述のモスクへの監視に加えて、イスラム関係団体、イスラム関係NGO・NPO、イスラム関係食料品店、イスラム関係飲食店、イスラム関係企業等の、あらゆるイスラムコミュニティを監視下に置き、大規模に各団体の情報を収集していた(甲1の49等)。前述のモスクへの監視が出入りする個々人の情報を収集する目的でなされていたのと異なり、当該情報収集は、各イスラムコミュニティの団体自体の情報を収集する目的でなされたものであった。
     とりわけ大規模に、網羅的・機械的な情報がなされたものとしては、.皀好(上述(2)参照、甲1の60【調査表別表(1)】)、▲ぅ好薀犂愀乎賃痢聞達韻裡僑亜敖敢塞淑棉宗複押法同(3)】)、ハラールフードと呼ばれるイスラム教の戒律上許された食料のみを扱うイスラム関係食料品店等(甲1の60【調査表別表(4)】)及びぅぅ好薀犇掬未代表を務める中古車会社・貿易会社等(甲1の60【調査表別表(7)】)があげられる。
    各コミュニティに対する情報収集項目は、以下のとおりであった。
     モスクについては、都内にある合計16箇所について、所在地、出入の状     況、出入車両及び車両使用者の人定把握、管理者、常駐者、指導者、有力者、結集人員に加え、銀行口座開設状況や物件登記の状況まで事細かに情報を収集されている(甲1の68)。
     イスラム関係団体については、イスラム教と関係の深い合計12団体について、所在地、代表者、役員、会費の額や財務状況(銀行口座、口座名義人、口座残高、収支状況)に関する情報を収集されている(甲1の69)。また、イスラムの周辺支援組織として合計39団体について、名称、所在地、設立目的、財務事情、さらにはセクト性についての情報を収集されている(甲1の70)。これらの団体の中には、医療機関である日本医療救援機構や国境なき医師団、国際機関であるユネスコ・アジア文化センター、さらには準政府機関であるJICA(国際協力機構)などが含まれている。
     イスラム関係食料品店等については、都内330超の食料品店、インド料理店、パキスタン料理店、トルコ料理店、イラン料理店等について、その名称、所在地、取扱物品、利用者の概要等の情報が収集されている(甲1の71)。
     中古車会社・貿易会社等については、都内262店の店名、所在地、代表者、輸出先、財政状況等の情報が収集されている(甲1の73)。
     上記のとおり、収集された情報が、在日イスラム教徒に関するあらゆる情報にわたっていることから、かかるイスラム関係団体の情報収集が犯罪事実の存在を契機とするものではないことは明らかである。それどころか、これらの団体については、犯罪の抽象的可能性や犯罪との親和性すら認められない。警視庁及び警察庁は、ただ、イスラム教と何らかの関係があれば、機械的・一般的・網羅的な情報を、継続的・組織的に収集していたのである。

    (4)レンタカー会社・ホテル・金融機関・大学等からの個人・団体情報の収集
     警視庁及び警察庁は、 崚堝發頬楴劼鮹屬レンタカー業者大手4社(トヨタレンタリース、ニッポンレンタカー、オリックスルレンタカー(引用ママ)、ニッサンレンタカー)から、照会文書なしで利用者情報の提供」を受ける関係を築き上げ(甲1の4)、その情報を提出させ、▲曠謄襪法岾姐饋洋昂瑤亮未靴諒欖鼻廚鯏按譴気察聞達韻裡粥法↓E豕三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)からイラン大使館に勤務する職員の給与振込履歴を取得し(甲1の85)、づ豕農工大学及び電気通信大学の管理者から留学生名簿を入手し、イスラム諸国人留学生の個人情報を把握して、イスラム教徒及びイスラム関係団体の各情報を収集していた(甲1の10)。
     これらの情報収集は、犯罪の具体的な危険はおろか、抽象的な危険や犯罪との親和性すら認められない状況下において、イスラム教徒と何らかの関係があれば、機械的・一般的・網羅的な情報を、継続的・組織的に収集するものである。

    2 本件情報収集活動は原告らの人権を侵害する
    (1)信教の自由の侵害
     ア 信教の自由の保障
     「信教の自由は、何人に対してもこれを保障」される(憲法第20条第1項)。国籍にかかわらずあらゆる人間は、個人の私事である宗教信仰に関して、国家から圧迫・干渉を受けない自由を有する。圧迫・干渉は、直接的・物理的なものにとどまらず、間接的・制度的なものも含まれる。
     信教の自由は、信仰の自由、宗教的行為・活動の自由、宗教的結社の自由という3つの側面で保障される。
     第1の信仰の自由は、保障の根幹たる宗教信仰の自由であり、内心にとどまる限り絶対的に保障されなければならない。信仰の自由には、信仰の告白を強制されず、または推知されない自由を含み(沈黙の自由)、信仰について圧迫・干渉を受けない自由が含まれる。原告らは、イスラム教徒として、イスラム教を信仰することについて行政機関から圧迫・干渉を受けない自由を有する。
     第2の宗教的行為・活動の自由は、各人が宗教上の祈り、礼拝、儀式等を主体的に行う自由である。原告らは、イスラム教徒として、イスラム教の信仰上の祈り、モスクへの礼拝、儀式への参加等について、行政機関から圧迫・干渉を受けない自由を有する。
     第3の宗教的結社の自由は、各人が宗教的な団体・組織を結成し、また所属・脱退する自由である。原告らは、イスラム教徒として、イスラム教の礼拝施設であるモスクを中心とする宗教的な結合体を結成し、当該結合体に所属することについて、行政機関から圧迫・干渉を受けない自由を有する。

     イ 本件情報収集活動が原告らの信教の自由を制約すること
     警視庁及び警察庁の本件情報収集活動は、犯罪の発生も、その蓋然性も、具体的危険も、さらには抽象的危険すらない中で、イスラム教徒又はイスラム関係団体であることのみを理由として、機械的・網羅的な情報を、継続的・組織的に収集するものである。
     本件情報収集活動によって、イスラム教は、捜査機関から一律に情報を収集されるような社会的に許容されない宗教であるとのラベルを貼られ、コミュニティの中の異物であると評価されかねない。
     捜査機関が、イスラム教徒であれば機械的にその個人情報を網羅的に収集し、継続的に礼拝施設を監視し、組織的に同個人情報を保管・利用し続け、さらには関係する全てのコミュニティを徹底的に調査するとすれば、当該宗教を信仰する者には多大な不利益がもたらされることになる。
     よって、警視庁及び警察庁による上記情報収集活動が、原告らの信教の自由に対する制約となることは明らかである。

     ウ 原告らの信教の自由の制約が許されないものであること
     本件情報収集活動は、たとえ公共の安全の保持といった捜査目的に基づくものであるとしても、憲法上許容されるものではない。
     まず、本件情報収集活動には一切の必要性がない。本件情報収集活動はテロ対策の名目で実施されたものであるが、そもそも容疑とされる「テロ」が何を意味するかが明らかではない。しかも、警視庁及び警察庁は、一般のイスラム教徒の情報ばかりを収集しており、「テロ」活動の防止のために必要な情報収集とはいえない。イスラム教徒であることのみを理由として「テロ」予備軍とみなしていることには何らの合理性もなく、これは宗教弾圧に等しいものである。
     また、仮に、一応の必要性を前提としたとしても、本件情報収集活動は、全く効果を挙げていない。例えば、愛知県の主要なモスク二か所を長期間にわたって継続的に監視しながら、何らの不審者・不審活動を認めることはできていなかったのである(甲1の55)。
     他方、本件情報収集活動により生じる人権侵害は甚大である。上記のとおり、本件情報収集活動は、特定の宗教に属する人間を全て犯罪者予備軍とみなすものであって、国家のなしうる信教の自由に対する侵害の中でも最悪な態様に属するものである。

     エ 小括
     以上のとおり、警視庁及び警察庁による本件情報収集活動は原告らの信教の自由を侵害する。

    (2)みだりに自身の信仰内容・信仰活動に関する情報を行政機関に収集されない自由の侵害
      ア みだりに自身の信仰内容・信仰活動に関する情報を行政機関に収集されない自由の保障
     「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」(憲法第13条)とされているところ、これは、「国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているもの」とされる(最大判昭和44年12月24日刑集23巻12号1631頁)。
     信仰内容・信仰活動は、神との対話を通じて精神の平穏を求めるものであり、その性質上究極の私事であるから、憲法上最も保護されるべき私生活上の自由である。自分がどのような宗教を、どの程度信仰し、どのような信仰活動を行っているかといった情報は、個人にとって最も国家に立ち入られたくない領域である。
     国家が、個人の信仰内容・信仰活動に関する情報をみだりに取得してはならないことは、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下「行政機関個人情報保護法」という)の制定の際に、特に注意すべき事項として、以下のように衆参両議院の附帯決議に付記されたことからも明らかである。

     「思想、信条、宗教、病気及び健康状態、犯罪の容疑、判決及び刑の執行並びに社会的差別の原因となる社会的身分に関する個人情報の取得又は保有に当たっては、利用目的を厳密に特定するとともに、可能な限り法律その他の法令等によって取得根拠を明確にし、その利用、提供及び安全確保に特段の配慮を加えること」

     以上のとおり、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりに自身の信仰内容・信仰活動に関する情報を行政機関に収集されない自由を有する。
    このうち内心にとどまる情報については絶対無制約であるから、行政機関が情報収集することは許されない。
     また、行動を伴う情報については絶対無制約ではないとしても、当該自由は容易に侵されてはならない究極の私事性を本質とするものである。国家は、真にやむを得ない事由がある場合に、必要最小限度において、個人の信仰内容・信仰活動に関する情報を収集することができるにとどまる。

     イ 本件情報収集活動が原告らのみだりに自身の信仰内容・信仰活動に関する情報を行政機関に収集されない自由を制約すること
     警視庁及び警察庁の本件情報収集活動は、犯罪の発生も、その蓋然性も、具体的危険も、さらには抽象的危険すらない中で実施された。しかも、原告らの信仰内容・信仰活動に関する情報を、機械的・一般的・網羅的・継続的・組織的に収集することを目的としてなされたものであった。
     このような警視庁及び警察庁による捜査活動が、原告らのみだりに自身の信仰内容・信仰活動に関する情報を行政機関に収集されない自由を制約するものであることは明らかである。

     ウ 警視庁及び警察庁による本件情報収集活動は、原告らのみだりに自身の信仰内容・信仰活動に関する情報を行政機関に収集されない自由を侵害する許されないものであること
     本件情報収集活動は、たとえ公共の安全の保持といった捜査目的に基づくものであるとしても許容されるものではない。
     まず、本件情報収集活動には必要性が一切ない。公共の安全の保持のために、原告らの信仰内容・信仰活動に関する情報を、機械的・一般的・網羅的・継続的・組織的に収集する必要性は皆無である。
     また、本件情報収集活動は、公共の安全の保持に一切役立たない。原告らの信仰内容・信仰活動に関する情報を収集することにより、公共の安全が保持されることは全く実証されていない。
     他方、本件情報収集活動による人権侵害は甚大である。上記のとおり、本件情報収集活動により、原告らがどのような宗教を、どのように信じ、どれほど宗教活動を行い、どのように精神の平穏を得ているかの情報について、行政機関が把握するに至った。
    そもそも個人の情報をみだりに収集することは、法律上禁止されているところである(行政機関個人情報保護法第3条第1項、第2項参照。また、東京都個人情報の保護に関する条例(以下「東京都個人情報保護条例」という)第4条第1項:「実施機関は、個人情報を収集するときは、個人情報を取り扱う事務の目的を明確にし、当該事務の目的を達成するために必要な範囲内で、適法かつ公正な手段により収集しなければならない」参照)。
     とりわけ信仰内容・信仰活動といった極めて私事性の高い情報を収集することは、国家による私生活の蹂躙であり、極めて謙抑的でなければならない。このことは、前記衆参附帯決議及び東京都個人情報保護条例第4条第2項の規定(「実施機関は、思想、信教及び信条に関する個人情報並びに社会的差別の原因となる個人情報については、収集してはならない。ただし、法令又は条例(以下「法令等」という。)に定めがある場合及び個人情報を取り扱う事務の目的を達成するために当該個人情報が必要かつ欠くことができない場合は、この限りでない」)からも明らかである。
     以上より、本件情報収集活動は、原告らのみだりに自身の信仰内容・信仰活動に関する情報を行政機関に収集されない自由を侵害するものであり許されない。

     エ 小括
     以上のとおり、警視庁及び警察庁による本件情報収集活動は、原告らの個人情報を収集する真にやむを得ない事由もなく、またその態様も到底必要最小限度にとどまるとはいえないから、原告らのみだりに自身の信仰内容・信仰活動に関する情報を行政機関に収集されない自由を侵害する。

    (3)違法捜査を利用した情報収集活動―いわゆる「事件化」について
     警視庁及び警察庁の本件情報収集活動が、人権を侵害する強度の違法性を有する活動であることは上記のとおりである。更に、警視庁及び警察庁は、本件情報収集活動に際して、各捜査員に対して、「事件化」と称して、別件逮捕・捜索による情報収集を推奨していることが明らかになった。
     例えば、2006.8付「08年サミットに向けた国テロ対策の具体的推進要領」においては、「容疑性が濃い」と認めた場合には、組織的に「積極的に事件化」するよう、各捜査員に対して指示をしている(甲1の7)。
    当該捜査方針に基づき、実際に、2006年11月18日付で、携帯電話やパソコンのハードディスクを解析し活動内容を把握する目的で、別の無関係の人物の「入管法違反幇助」の被疑事実で逮捕し、捜索・差押を行ったことが記載されている(甲1の31・2p以下)。また、より重要であると目星をつけた人物に対しては、ある人物に携帯電話を買い与えたという被疑事実のみで、不法残留幇助として逮捕・勾留し、自宅・勤務先を捜索し、パソコン等を押収し、内容を解析する等の徹底した事情聴取を行ったことが記録されている(甲1の19・1p以下)。
     上記記載内容からすれば、「事件化」捜査が、憲法及び刑事訴訟法で禁止された典型的な別件逮捕であることは明らかである。警視庁及び警察庁が、このような別件逮捕を日常的に駆使して情報収集を実施している事実は、本件情報収集活動が人権を侵害するものであることを端的に表すものである。

    3 小括
     以上より、警視庁及び警察庁は、組織として本件情報収集活動を実施して原告らの人権を侵害したのであるから、被告らは国家賠償法第1条第1項に基づき原告らに生じた損害を賠償する責任を負う。
       
    第3 保管態様の違法性について
    1 警視庁及び警察庁の個人情報の保管態様
     警視庁及び警察庁は、以下の態様で原告らの信仰内容・信仰活動に関する個人情報を保管している(以下「本件保管態様」という)。
      )楫鐓霾鷦集活動により収集した原告らイスラム教徒の大量の個人情報を、履歴書のような態様で保管している(甲1の11の1〜20、1の12)。
     ◆.汽潺奪箸砲けるテロ対策名目で収集した大量の個人情報を、サミット終了後においても、「各署から報告を受けて統計化を図」っている(甲1の55・)。

    2 原告らの自身の信仰内容・信仰活動に関する個人情報をみだりに行政機関に保管されない自由の侵害
    (1)みだりに自身の信仰内容・信仰活動に関する情報を行政機関に保管されない自由の保障
     上述のとおり、国民の私生活上の自由は、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきであるところ(憲法第13条)、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりに自身の信仰内容・信仰活動に関する情報を行政機関に保管されない自由を有する。
     行政機関は、一定の目的があって初めて個人情報を収集する権限を与えられるのであるから(行政機関個人情報保護法第3条「行政機関は、個人情報を保有するに当たっては、法令の定める所掌事務を遂行するため必要な場合に限り、かつ、その利用の目的をできる限り特定しなければならない」参照)、当該目的が消滅すれば当然に収集した個人情報を廃棄しなければならないことの当然である。
     このことは、東京都が自ら制定した東京都個人情報保護条例において、「実施機関は、保有の必要がなくなった保有個人情報については、速やかに消去し、又はこれを記録した公文書を廃棄しなければならない。ただし、歴史的資料として保有されるものについては、この限りでない。」(同条例第7条第3項)として、明文化されている。
     当該自由が絶対無制約ではないにしても、当該自由が究極の私事性を本質とするものであること、捜査機関が抽象的な捜査の必要性をもって容易に当該自由を制約できるとすれば憲法が当該自由を保障した趣旨が骨抜きになってしまうことに鑑みれば、行政機関による制約が許容される事例は、極めて限定的な場合でなければならない。
     そこで、行政機関は、真にやむを得ない事由がある場合に、必要最小限度、個人の信仰内容・信仰活動に関する情報を保管することができるにとどまる。保管する必要性、目的等を踏まえた、保管における比例原則を遵守しなければならない。

    (2)本件保管態様が原告らのみだりに自身の信仰内容・信仰活動に関する情報を行政機関に保管されない自由を制約すること
     警視庁及び警察庁の本件保管態様は、犯罪の発生も、その蓋然性も、具体的危険も、さらには抽象的危険すらない中で、イスラム教徒又はイスラム関係団体の関係者であることのみを理由として、原告らの信仰内容・信仰活動に関する情報を、一覧性を伴う方式で保管するものである。
     よって、警視庁及び警察庁による本件保管態様が、原告らのみだりに自身の信仰内容・信仰活動に関する情報を行政機関に保管されない自由に対する制約となることは明らかである。

    (3)警視庁及び警察庁による原告らのみだりに自身の信仰内容・信仰活動に関する情報を行政機関に保管されない自由の制約は許されないものであること
     本件保管態様は、たとえ公共の安全の保持といった目的に基づくものであるとしても、憲法上許容されるものではない。
     まず、原告らの情報の保管には一切の必要性がない。公共の安全の保持のために、原告らの信仰内容・信仰活動に関する情報を保管する必要性は皆無である。
    また、原告らの情報を保管することにより公共の安全が確保されるという関係にもない。原告らの信仰内容・信仰活動に関する情報を保管することにより、公共の安全が保持されることは全く実証されていない。
     本件保管態様は、単なる見込み捜査に基づいて大量に収集した個人情報を、イスラム教徒というラベリングの元に一覧性の高い態様で保管するものにすぎない。上記のとおりこれらの情報は、収集されることすら極めて限定的であるべきであるが、仮に適法に収集した場合でも取扱いは厳重にされなければならない。大量の個々人の信仰内容・信仰活動に関する情報が、無目的に行政機関により保管され、データベース化されてしまえば、行政機関はいつでも個人の信仰内容・信仰活動を把握することが出来てしまう。また、収集された個人情報が全く廃棄されないとすれば、行政機関には大量の信仰内容・信仰活動に関する個人情報が蓄積され、いつでも、いつまでも行政機関が利用することが可能になってしまう。
     しかも、本件保管態様は、原告らの一切の承諾のないままに行われており、かつ、原告らには一切の利便がもたらされない点で免許等の場合とは異なる。原告らは、犯罪はおろか、そのような個人情報の保管を甘受すべき何らの違法行為も行っていない。
    よって、本件保管態様は、保管につき真にやむを得ない事由もなく、また、その人権制約の程度は必要最小限度にとどまるとは到底いえないから、原告らのみだりに自身の信仰内容・信仰活動に関する情報を行政機関に保管されない自由を侵害するものであり許されない。

    3 小括
     以上より、警視庁及び警察庁は、組織として原告らの個人情報を保管して原告らの人権を侵害したのであるから、国家賠償法第1条第1項に基づき原告らに生じた損害を賠償する責任を負う。

    第4 漏洩行為の違法性について
    1 警視庁の不法行為
    (1)職員による故意の流出の場合  
     当該漏洩行為が故意に基づくものであれば、当該漏洩させた職員が「職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない」とする地方公務員法第34条第1項に違反したことは明らかである。
     そして、当該漏洩させた職員は警視庁の職員であるから、「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員」であり、また、当該漏洩行為は「その職務を行うについて」なされたものであるから、警視庁の上級機関である被告都は、原告らに生じた損害を賠償しなければならない。

    (2)過失による流出の場合
     警視庁の長である警視総監は、以下のとおり、保有する個人情報を適切に管理し、漏洩を防止するために適切な措置を講じる義務を負っていた。
    すなわち、行政機関個人情報保護法第6条第1項は、「行政機関の長は、保有個人情報の漏洩、滅失又はき損の防止その他の保有個人情報の適切な管理のために必要な措置を講じなければならない。」と定めている。
     また、警視庁の上級機関である被告都は、東京都個人情報保護条例を制定しており、警視庁の長である警視総監は同条例の実施機関とされる(同条例第2条第1項)。警視総監は、同条例に基づき、「生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができる」個人情報(同条第2項)に関して、「みだりに公にされることのないよう最大限の配慮」をし(同条例第3条第1項)、また、適正な取扱が確保されるよう必要な措置を講ずる義務を負う(同条第3項)。上記義務の具体化として、警視総監は、「保有個人情報の漏洩、滅失及びき損の防止その他の保有個人情報の適正な管理のために必要な措置を講じなければならない」(同条例第7条第2項。警視総監が負う上記義務を、以下「漏洩対策構築義務」という)。
     しかるに、警視庁が、平成22年12月24日付「国際テロ関連データのインターネット上への掲出事案について」(甲3)において、「外事第三課内で使用されているコンピュータの中には、外部記録媒体の使用履歴の証跡管理その他の管理が不十分と思われるものが一部存在することが判明するなど、外部記録媒体を用いた情報の持ち出しが可能であったことは否定できない」と認めるとおり(甲3・4p)、警視総監は漏洩対策構築義務を怠り、本件個人情報を漏洩させるに至った。

    2 本件漏洩対策構築義務違反により、原告らには重大な権利侵害が生じた
     まず、本件漏洩対策構築義務違反により、原告らの大量の個人情報を流出させ、不特定多数の人間に伝達するに至ったのであるから、原告らのプライバシー権を侵害したことは明らかである。
     また、本件流出は、単に個人情報の流出にとどまらず、当該個人がムスリムであるというセンシティブ情報の流出でもあったから、原告らの、みだりに信仰内容・信仰活動を他者に知られない自由を侵害したこともまた明らかである。
    さらに、本件流出資料は、警視庁及び警察庁によるテロ対策捜査資料であることが一見して明らかであり、掲載された個人が捜査機関によりテロリスト又はテロリスト関係者とみなされているという印象を強く与えるものであった。しかし、原告らはテロリストでもテロリスト関係者でもない一般の市民であるから、本件流出が原告らの社会的評価を著しく低下させ、原告らの名誉権を侵害したこともまた明らかである。
      
    3 被告都の不法行為責任
     警視総監の上記漏洩対策構築義務違反が、「職務を行うについて」なされたものであることは明らかであり、また、当該義務違反により本件漏洩が生じ、原告らに損害が生じたことは明らかである。
     よって、被告都は、警視総監の上級機関として、警視総監の上記不法行為によって原告らに生じた損害を賠償する責めを負う。

    第5 放置行為の違法性について
    1 警視庁及び警察庁は捜査資料の流出を認識していたこと
     本件個人情報は、2010年10月28日にインターネット上に流出し、同月29日夜の段階では既に警視庁により警視庁の捜査資料である旨の確認がなされていたと報道されている。
     実際、本件流出資料は、その内容の詳細度、具体性、分量、捜査機関でなければ知りえないような情報が掲載されていること等の特徴から、一見して警視庁及び警察庁の捜査資料であることは明らかであり、警視庁が同月29日夜の段階で捜査資料であることを確認したとの報道の信用性は極めて高い。

    2 警視庁及び警察庁が何らの実効的対策を採らなかったこと
     警視庁及び警察庁は、同年12月24日に漏洩の事実を認めて形式上の謝罪をするまで、本件流出資料について自らが作成・管理していた文書であることを認めず、何ら実効的対策を採らなかった(以下「本件不作為」という)。

    3 警視総監及び警察庁長官には損害拡大防止義務が課せられていたこと
    (1)警視総監について
     東京都個人情報保護条例において「実施機関は、この条例の目的を達成するため、個人情報の保護に関し必要な措置を講ずるとともに、個人情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない。」(同条例第3条第1項)と定められているところ、ひとたび漏洩した個人情報をそのまま放置すれば、「個人情報がみだりに公にされる」状態が続くのであるから、「実施機関」である警視総監には、公にされた状態を可及的速やかに除去すべく「最大限の配慮を」する義務が課せられていた。
     警視庁には本件捜査資料の漏洩に関する不法行為責任が認められること(第4参照)、警視庁が情報の流出を認め被害の拡大防止措置を採ることは容易であったこと、本件捜査資料には原告らのセンシティブ情報が含まれており、また、本件捜査資料がテロリスト対策名目でなされたものであるから原告らがテロリストであると誤解される恐れがあり、原告らが甚大な損害を蒙る蓋然性が高かったこと等を総合すれば、当該義務は、本件事案の下では、自己の違法な先行行為によってもたらされる原告らの損害を拡大させないよう防止する義務(以下「損害拡大防止義務」という)という作為義務となって、実施機関たる警視総監に課せられていたと解するべきである(警察官には具体的事案のもとで国民の権利を保護するために一定の作為義務が課せられることを判示した最判昭和57年1月19日民集36巻1号23頁参照)。

    (2)警察庁長官について
     行政機関個人情報保護法において、「行政機関の長は、保有個人情報の漏洩、滅失又はき損の防止その他の保有個人情報の適切な管理のために必要な措置を講じなければならない。」(同法第6条第1項)と定められているところ、漏洩した個人情報に関しても、漏洩以前に行政機関が保有・管理していた個人情報である以上、「適切な管理のために必要な措置」が講じられなければならない。したがって、警察庁の長である警察庁長官には、漏洩した原告らの個人情報を保護するための「必要な措置」を講じる義務が課せられていた。
     当該義務が、警察庁長官に対して、損害拡大防止義務として具体化されて課せられていたことは、上記警視総監の場合と同様である。

    4 被告らの不法行為責任
     警視総監及び警察庁長官の本件不作為が、警視総監及び警察庁長官に課せられた損害拡大防止義務に反することは明らかである。警視総監及び警察庁長官は、流出資料について警視庁及び警察庁が作成・管理していた文書であることを速やかに認めた上で、資料の公開・掲出を続けるインターネットプロバイダー等に対して、実効的に削除請求等の具体的な対応をするべきであった。
     よって、被告都は、国家賠償法上、本件不作為によって原告らに生じた損害について、賠償する責任を負う。


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