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20121026対第三書館ら判決文

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     主 文

      被告株式会社第三書館は,別紙書籍目録記載の各書籍を出版,販売又は頒布してはならない。

     

      被告らは,連帯して,原告らに対し,それぞれ220万円及びこれに対する平成22年11月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

     

    3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

     

    4 訴訟費用は,これを5分し,その1を原告らの,その余を被告らの各負担とする。

     

    5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。

     

     

    事実及び理由

    第1 請求

    1 主文第1項同旨

    2 被告らは,連帯して,原告らに対し,それぞれ330万円及びこれに対する平成22年11月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

     

    第2 事案の概要               

      本件は,被告会社が出版した「流出「公安テロ情報」全データ」と題する別紙書籍目録記載の書籍1及び2(以下「本件各書籍」という。)に原告らの個人情報を掲載されたことにより,その名誉及びプライバシーが侵害されたとして,原告らが,被告会社に対し,人格権に基づき,本件各書籍の出版等の差止めを,不法行為に基づき,各330万円の損害賠償金及びこれに対する不法行為の日である平成22年11月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,被告会社の代表取締役である被告北川に対し,不法行為又は会社法429条に基づき,上記損害賠償金及び遅延損害金を被告会社と連帯して支払うよう求めた事案である。

     

    1 前提事実(争いのない事実並びに括弧内に掲げた証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)

    (1)当事者

    ア 原告らは,いずれもイスラム教徒であり,日本の公職に関わっていない一般人である。                       

    イ 被告会社は,東京都新宿区内に所在する出版社であり,被告北川は,その代表取締役である。

     

    (2)本件各書籍の出版

    ア 被告会社は,平成22年11月25日を発行日付とする別紙書籍目録記載の書籍1(以下「本件書籍初版」という。)2000部を出版した。

    イ 被告会社は,平成22年12月8日を発行日付とする別紙書籍目録記載の書籍2(以下「本件書籍第二版」という。)3000部を出版した(以下,本件各書籍の出版を「本件出版行為」という。)。

     

    (3)本件各書籍の記載内容

      本件各書籍は,平成22年10月末に発生したいわゆる公安テロ情報流出事件において流出したインターネット上の流出データを書籍として編集したものであり,原告らの個人情報(以下「本件情報」という。)が詳細に記載され,原告らがテロリスト又はその関係者であるかのような記載がされている(ただし,本件書籍第二版では,原告1及び2に関する記載は黒塗りにされている。)。

      本件情報には,原告らの実名,顔写真に加え,原告らの国籍国,住所,家族構成,家族の氏名及び生年月日,家族の勤務先,家族との同居の有無,在留期間及びその在留資格,旅券番号,外国人登録の地,住所歴,職歴,モスクヘの出入り状況,立ち寄り徘徊先,身長体格等の記述並びに「容疑」として交友関係等に関する記述の全部又は一部が含まれている(甲1,甲2)。

     

    (4)仮処分の経過

    ア 原告1及び2は,平成22年11月28日,当庁に対し,被告会社を債務者として,本件書籍初版の出版禁止等仮処分の申立て(当庁平成22年(ヨ)第3918号)を行い,当庁は,同月29日,原告1及び2に関する部分の記事を削除しなければ,出版,販売,頒布をしてはならない旨の仮処分決定を発令し(以下「第1次仮処分決定」という。),同年11月30日,第1次仮処分決定は被告会社に送達された(甲3の1,甲25)。

    イ 原告3及び4は,同年12月2日,当庁に対し,被告会社を債務者として,本件書籍第二版の出版禁止等仮処分の申立て(当庁平成22年(ヨ)第3982号)を行い,当庁は,同月3日に原告3につき,同月10日に原告4につき,それぞれ当該原告に関する部分の記事を削除しなければ,出版,販売,頒布をしてはならない旨の仮処分決定を発令し,各決定は,それぞれ同月6日,同月14日に被告会社に送達された(以下,両決定を合わせて「第2次仮処分決定」という。甲4,甲5,甲29,甲30)。

    ウ 原告5ないし9は,同年12月7日,当庁に対し,被告会社を債務者として,本件書籍第二版の出版禁止等仮処分の申立て(当庁平成22年(ヨ)第4038号)を行い,当庁は,同月10日,原告5ないし9に関する部分の記事を削除しなければ,出版,販売,頒布をしてはならない旨の仮処分決定を発令し,同決定は,同月13日,被告会社に送達された(甲6,甲31)。

    エ 被告会社は,伺年12月28日,第1次仮処分決定に対し,保全異議を申し立て(当庁平成22年(モ)第55376号),平成23年2月16日,第1次仮処分決定が認可されると,同年3月2日,保全抗告を申し立て(東京高等裁判所平成23年(ラ)第417号),同年5月31日,同抗告は棄却された(甲7,甲8)。

     

    2 争点

    (1)本件出版行為の違法性

    (原告らの主張)

      本件各書籍に記載された情報は原告らの名誉及びプライバシーを著しく侵害するものであるから,被告会社は,本件出版行為につき不法行為責任を免れない。

    (被告らの主張)

      争う。              

      本件各書籍に記載された流出情報は,本件各書籍の出版以前にインターネット上で閲覧及びダウンロードすることが可能な状態にあり,流出情報は公知,公開の情報といえるものであるから,本件出版行為により原告らのプライバシーが侵害されたということはできない。

     

    (2)本件各書籍の出版・販売等の差止めの適否

     (原告らの主張)

    ア 本件各書籍の内容が公共の利害に関する事項に係るものとはいえないこと

      本件各書籍に記載された情報はいずれも原告らの詳細な個人情報であって,原告らは公職になく何ら社会的な影響力を有しない一般人であるから,これらの個人情報が公共の利害に関する事項に当たらないことは明らかである。

       ある記事が公共の利害に関する事項であるかどうかは,当該記事自体の内容・性質に照らして客観的に判断されるべきであり,出版者の主観的意図や表現方法等は公益目的の有無の認定において考慮されるにすぎず,公共の利害に関する事項か否かの判断を左右するものではない。

    イ 本件出版行為が専ら公益を図る目的のものではないことが明白であること

       原告らのプライバシー情報を出版物として公にすることで社会が得られる公益は皆無であり,本件出版行為が専ら公益を図る目的のものではないことは明白である。

       被告らは,本件各書籍に本件情報をそのまま掲載することによって,警察による個人情報流出,公安警察による違法捜査,イスラム教への差別といった諸問題をアピールし世論を高めるという公益目的があると主張するが,そのような方法を取らなくても,流出情報の性質,情報収集の方法等が明らかにされれば,上記目的を達成し,国民の関心に資する書籍を出版することは可能である。また,被害者に対し,情報流出について注意を喚起するというのであれば,流出情報を被害者に送付するだけで目的を達成することができるから,本件各書籍を出版する必要性はない。

    ウ 原告らが本件出版行為により重大かつ著しく回復困難な損害を被るおそれがあること

    (ア))楫鏗峠饑劼蓮ぁ嵶出「公安テロ情報」全データ」という題名が付されていること,∨楫鏗峠饑劼蓮し抻訥8安部外事第三課により収集されたテロリズムに関する捜査情報が記載された文書をそのまま掲載したものとされていること,8狭陲蕕亡悗垢覽述の項目として「容疑」ないし「容疑情報」などと記載されていること,じ狭陲蕕亡悗垢覽述にはテロリストと一定の関係があったことをうかがわせるものが含まれること等の本件各書籍の各記載に鑑みると,一般人の普通の注意と読み方からすれば,原告らは,警視庁からテロリスト又はその関係者として容疑をかけられている者と受け取られかねず,かかる情報が公開されることにより,原告らが重大かつ著しく回復困難な損害を被るおそれが存在することは疑いがない。

        仮に,「イスラム教徒=「テロリスト」なのか?」との副題の存在が,本件各書籍の記載内容に関する一定の警告を読者に発しているとしても,通常人は警視庁の捜査活動の結果得られた情報に対して一般的信頼を有している上,本件情報の真偽を読者が見極めることは困難であるから,一般の読者が,原告らはテロリズムに関する被疑者であると受け取ることは十分あり得ることである。

    (イ)本件情報の流出がインターネット上に限られているのであれば,インターネット上において積極的に情報を収集しようとする者のみが知り得るのに対し,これが書籍として出版されると,‥該情報を容易に一覧することができるようになり,⊇馘垢吠造戮蕕譴襪瓦箸砲茲螳貳命佑量椶僕動廚某┐譟て手は格段に容易になり,J欖匹睛動廚砲覆蝓きい修侶覯未箸靴導蔽覆帽範囲に情報が公開されることになるから,本件出版行為により原告らは重大かつ著しく回復困難な損害を被るおそれがある。

    (被告らの主張)

    ア 本件各書籍の内容が公共の利害に関する事項に係るものとい   えること

       本件各書籍の目的は,公安警察がイスラム教徒という理由だけで個人を,テロリストとみなしているという違法捜査を公にし,このような違法捜査の対象となっている者に注意を喚起することにあるO原告らの名前,写真,電話番号等の属性の詳細に関わる個人情報を明らかにすることは,違法捜査の実態を迫真性をもって明らかにするとともに,違法捜査の被害者である原告らが警察に抗議し,情報抹消を要求し,賠償要求する機会を与えるものであるから,公共の利害に関する事項である。

    イ 本件出版行為は専ら公益を図る目的のものであること

       第1に,一般人の個人情報が流出しているということをアピールし,警 察の情報流出問題に対する世論を高めるという公益を図る目的がある。

        第2に,一般人の個人情報が公安警察の手に渡るというごとをアピールし,公安警察の違法捜査の問題に対する世論を高めるという公益を図る目的がある。

        第3に,違法捜査の被害者である原告らが警察に抗議し,捜査方法を変えさせ,情報抹消をさせるという公益を図る目的があるといえる。

        第4に,公安警察の捜査は,イスラム教徒ということだけに注目しており,イスラム教への差別/宗教の自由の侵害の問題にまで及ぶところ,国民に対して,公安警察の在り方,ひいては憲法上の問題,政治の問題を提起することができるから,公益を図る目的があるといえる。

    ウ 原告らが本件出版行為により重大かつ著しく回復困難な損害を被るおそれがあるとはいえないこと

    (ア)木件各書籍には,目立つように赤字で「イスラム教徒=「テロリスト」なのか?」というサブタイトルがついており,読者に疑問を投げかけ,反語形式で表現をしていることが分かる。そのため,原告らをテロリスト又はその関係者であるとして記載しているのではないことが一見して明白である。むしろ,本件各書籍は,ただ熱心に礼拝しているだけでテロリストのように扱われてしまうのは不当であり,そのような捜査は違法である旨の主張をし,原告らを公安警察の捜査の被害者として扱っている。そのため,本件各書籍を通常の判断能力を有する一般人である読者が読んだ場合,読者は,原告らがテロリズムに関する何らかの犯罪の被疑者であるとは判断せず,むしろ一般市民が捜査の対象になっており,公安警察の捜査の恐ろしさを感じるといえる。

    (イ)本件各書籍に含まれる情報は,インターネットで「テロ捜査資料」の  語句や原告らの個人名で検索すれば容易に入手できる状態にあるから,本件出版行為によってプライバシー侵害が発生したとはいえない。

       本件情報の内容は,原告らの氏名,顔写真,住所,宗教的活動内容などであるが,イスラム教を信仰することは,社会的に非難されたりする事柄ではなく,顔写真や住所や氏名も日常生活上目にする情報の一つにすぎないから,原告らが重大かつ著しく回復困難な損害を被るおそれがあるとはいえない。

     

    (3)被告北川の責任

    (原告らの主張)

      被告北川は,被告会社の代表取締役として本件出版行為を行い,原告らの名誉,信用及びプライバシー等の人格的利益を著しく毀損したものであり,被告会社の職務を行うについて悪意又は重大な過失があったことは明らかであるから,会社法429条に基づく損害賠償責任を負うとともに,民法709条に基づく損害賠償責任を負う。

    (被告北川の主張)

      争う。

     

    (4)損害額

    (原告らの主張)

      原告らは,本件出版行為により名誉,信用及びプライバシー等の人格的利益を著しく侵害されており,これにより筆舌に尽くし難い精神的損害を受けた。これによる被害は各300万円を下回ることはない。また,原告らは,上記損害を回復するために本件訴訟等を弁護士に委任せざるを得なくなったもので,その費用は各30万円を下回ることはない。

    (被告らの主張)

      争う。

      原告らの損害は,まず国や東京都から賠償されるべきものであり,被告らに賠償を求めることのできる損害額は,その責任割合を差し引いたものとなるべきである。

     

    第3 当裁判所の判断

    1 認定事実

      前提事実,括弧内に記載した証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。

    (1)本件情報の内容    

    ア 原告1について

      本件書籍初版には,原告1の実名,生年月日,家族構成,勤務先に関する記述がある。

    イ 原告2について

      本件書籍初版には,原告2の実名,顔写真,国籍国,生年月日,住所,電話番号,家族構成,家族の氏名及び生年月日,夫の勤務先,家族との同居の有無,旅券番号,出入国歴,住所歴,職歴及びモスクへの出入り状況,身長体格の記述並びに「容疑」として交友関係等に関する記述がある。

    ウ 原告3について

      本件各書籍には,原告3の実名,顔写真,国籍国,生年月日 ,住所,家族構成家族の氏名及び生年月日,妻との同居の有無,在留期間及びその在留資格,旅券番号,外国人登録の地,外国人登録番号,住所歴,職歴,モスクへの出入り状況,立ち寄り徘徊先,身長体格等の記述並びに「容疑」として交友関係等に関する記述がある。

    エ 原告4について

      本件各書籍には,原告4の実名,顔写真,国籍国,生年月日,住所,家族構成,家族の氏名及び生年月日,子の勤務先,家族との同居の有無,在留期間及びその在留資格,旅券番号,外国人登録の地,外国人登録番号,住所歴,職歴,モスクへの出入り状況,立ち寄り徘徊先,身長体格等の記述並びに「容疑」として交友関係等に関する記述がある。

    オ 原告5について

      本件各書籍には,原告5の実名,顔写真,国籍国,生年月日,住所,電話番号,携帯電話番号,家族構成,家族の氏名及び生年月日,妻の勤務先,家族との同居の有無,在留期間及びその在留資格,旅券番号,外国人登録の地,外国人登録番号,住所歴,職歴,モスクへの出入り状況,身長体格等の記述並びに「容疑」として交友関係等に関する記述がある。

    カ 原告6について

      本件各書籍には,原告6の実名,顔写真,国籍国,生年月日,住所,家族構成,妻の氏名及び生年月日,妻の勤務先,妻との同居の有無,在留期間及びその在留資格,旅券番号,外国人登録の地,外国人登録番号,住所歴,職歴,モスクヘの出入り状況,立ち寄り徘徊先,身長体格等の記述並びに「容疑」として交友関係等に関する記述及び「H20.6.30 事件化」との記述がある。

    キ 原告7について

      本件各書籍には,原告7の実名,顔写真,国籍国,生年月日,住所,家族構成,家族の氏名及び生年月日,家族との同居の有無,在留期間及びその在留資格,旅券番号,外国人登録の地,外国人登録番号,住所歴,職歴,モスクへの出入り状況,身長体格等の記述並びに「容疑」として交友関係等に関する記述及び「H17.11.26」「不法残留事件で,自宅捜索実施」「携帯電話及びパソコンの押収」どの記述がある。

    ク 原告8について                  十

      本件各書籍には,原告8の実名,顔写真,国籍国,生年月日,住所,電話番号,家族構成,妻の氏名及び生年月日,妻との同居の有無,在留期間及びその在留資格,旅券番号,外国人登録の地,外国人登録番号,住所歴,職歴,モスクへの出入り状況,身長体格等の記述並びに「容疑」として交友関係等に関する記述及び「不法残留事実で現行犯逮捕」との記述がある。

    ケ 原告9について

      本件各書籍には,原告9の実名,顔写真,国籍国,生年月日,住所,電話番号,家族構成,家族の氏名及び生年月日,家族との同居の有無,在留期間及びその在留資格,旅券番号,外国人登録の地,外国人登録番号,住所歴,職歴,モスクへの出入り状況,身長体格等の記述並びに「容疑」として交友関係等に関する記述及び「犯罪情報」として「名誉毀損・脅迫」との記述がある。

    コ 原告10について

      本件各書籍には,原告10の実名,顔写真,国籍国,生年月日,住所,家族構成,妻の氏名及び生年月日,妻との同居の有無,在留期間及びその在留資格,旅券番号,外国人登録の地,外国人登録番号,住所歴,職歴,モスクへの出入り状況,身長体格等の記述並びに「容疑」として交友関係等に関する記述及び「犯罪情報」として「詐欺」との記述がある。

    サ 原告11について

      本件各書籍には,原告11の実名,顔写真,国籍国,生年月日,住所,勤務先,家族構成,家族の氏名及び生年月日,家族との同居の有無,在留期間及びその在留資格,旅券番号,外国人登録の地,外国人登録番号,住所歴,職歴,モスクへの出入り状況,立ち寄り徘徊先,身長体格等の記述並びに「容疑」として交友関係等に関する記述がある。

    シ 原告12について

      本件各書籍には,原告12の実名の一部,国籍国,家族構成,住所地の県,業種,交友関係等に関する記述がある。原告12を知る者にとっては,これらの情報により原告12を同定することが可能である。

    ス 原告13について

      本件各書籍には,原告13の実名,顔写真,国籍国,生年月日,住所,勤務先,家族構成,家族の氏名及び生年月日,家族との同居の有無,在留期間及びその在留資格,旅券番号,外国人登録の地,外国人登録番号,住所歴,職歴,モスクへの出入り状況,立ち寄り徘徊先,身長体格等の記述並びに「容疑」として交友関係等に関する記述がある。

    セ 原告14について

      本件各書籍には,原告14の実名,顔写真,国籍国,生年月日,住所,家族構成,家族の氏名及び生年月日,妻の勤務先,家族との同居の有無,在留期間及びその在留資格,旅券番号,外国人登録の地,外国人登録番号,住所歴,職歴,モスクへの出入り状況,立ち寄り徘徊先,身長体格等の記述並びに「容疑」として交友関係等に関する記述及び「犯罪情報」として「器物損壊」との記述がある。

    ソ 原告15について

      本件各書籍には,原告15の実名(ただし,誤字がある。),生年月日,住所,家族構成,家族の生年月日に関する記述がある。

    夕 原告16について

      本件各書籍には,原告16の実名,国籍国/生年月日,住所,電話番号,携帯電話番号,家族構成,家族の氏名及び生年月日,在留資格,旅券番号,出入国歴,モスクへの出入り状況の記述並びに「容疑」として交友関係等に関する記述がある。

    (以上につき,甲1,甲2,甲9ないし24)

     

    (2)本件出版行為の実行

      被告北川は,平成22年11月頃,インターネット上から本件情報を入手し,その情報全てをインターネット上に流出した初期の形でそのまま本件各書籍に収録し,被告会社から出版することを決定し,被告会社において本件出版行為を実行した(被告北川本人,乙3,乙6)。

     

    (3)仮処分後の本件各書籍の出荷等

      被告会社は,第1次仮処分決定の送達を受けた後である平成22年12月3日,東京都新宿区内の書店「A」に本件書籍初版108冊を出荷し,同日,同書店にこれが入荷した(被告北川本人,甲26)。

      また,被告会社は,原告3に係る第2次仮処分決定の送達を受けた後である同月13日から同月16日にかけて,本件書籍第二版の予約分の発送を行った(甲32,甲45)。

     

    2 争点(1)(本件出版行為の違法性)について

      認定事実によれば,本件各書籍は,あたかも原告らがテロリスト又はその関係者であるかのように記載するものであるから,そのような容疑が客観的に存するか否かにかかわらず,本件出版行為は原告らの社会的評価を低下させるものであり,それによって原告らの名誉が侵害されたことは明らかである。また,本件情報は,原告らの極めて詳細な個人情報であると認められ,一般人である原告らのプライバシーに該当する情報であるということができるから,原告らは,これらをみだりに公開されない法的保護に値する利益を有すると認めるべきである。          

      これに対し,被告らは,本件情報はインターネット上で入手し得る公知,公開の情報といえるから,原告らのプライバシー侵害はない旨主張するが,本件情報が書籍としてまとめられて出版されることになれば,より広範な読者等の目に触れることになると考えられる。そうすると,原告らは,当該情報をみだりに公開されない利益をなお失っていないと解するのが相当であるから,被告らの主張は採用することができない。

      よって,本件出版行為は,原告らの名誉及びプライバシーを侵害する違法行為との評価を免れない。

     

    3 争点(2)(本件各書籍の出版・販売等の差止めの適否)につい て

    (1)本件各書籍の内容が公共の利害に関する事項に係るものといえ  るか

      表現内容が公共の利害に関する事項に係るものといえるか否かは,当該表現自体の内容・性質に照らして客観的に判断されるべきであるところ,本件情報は,公職にない原告らの属性の詳細に関わる個人情報であって,およそ公共の利害に関する事項ということはできない。

      これに対し,被告らは,本件各書籍を出版した目的は,イスラム教徒という理由だけで個人をテロリストとみなしているという公安警察の違法捜査を公にし,流出した原告らの個人情報を含む本件情報をそのまま公開することにより,問題の実態を迫真性をもって明らかにするとともに,このような違法捜査の対象となっている者に賠償要求の機会を与えるというものであるから,本件各書籍の内容は公共の利害に関する事項に係るものであると主張する。しかしながら,前記のような原告らの個人情報それ自体が公共の利害に関する事項に当たるということはできないし,被告らの主張する目的は,原告らのプライバシーに関わる情報を明らかにすることなく達成することが可能であるから,被告らの主張は採用することができない。

      よって,本件各書籍の内容は,公共の利害に関する事項に係るものとはいえない。

     

    (2)本件出版行為が専ら公益を図る目的のものではないことが明白  であるか

      本件情報は,公職にない原告らの属性の詳細に関わる個人情報であることからすれば,これをそのまま公開することが,専ら公益を図る目的のものではないことは明白である。

      これに対し,被告らは,警察の情報流出問題に対する世論を高めるという公益を図る目的がある等とるる主張するが,被告が主張する目的を達成するために原告らの個人情報をそのまま公開する必要は全くなく,その公開には何の合理性も認められないから,被告らの主張は採用することができない。

     

    (3)原告らが本件出版行為により重大かつ著しく回復困難な損害を 被るおそれがあるか

      本件情報には,一般人が公開を望まない情報が多数含まれている上,原告らにつき「容疑」として記載されている情報も含まれており,「流出「公安テロ情報」全データ」という本件各書籍の題名とあいまって,あたかも原告らがテロリスト又はその関係者であるかのような記述がされていることからすると,本件出版行為により原告らは重大かつ著しく回復困難な損害を被るおそれがあるといえる。

      これに対し,被告らは,本件各書籍の表紙には「イスラム教徒=「テロリスト」なのか?」という反語形式のサブタイトルがついているから,原告らをテロリスト又はその関係者であるとして記載しているのではないことが一見して明白であると主張するが,本件各書籍の一般読者の普通の注意と読み方によれば,原告らがテロリスト又はその関係者であるかのような印象を受けることは明らかである。また,本件情報がインターネット上で入手できるとしても,前記のとおり,これが書籍としてまとめられて出版等されることになれば,より広範な読者等の目に触れることになると考えられるから,本件出版行為により原告らが重大かつ著しく回復困難な損害を被るおそれがあるとの判断を左右することにはならない。

     

    (4)小括

      以上によれば,本件各書籍の出版,販売又は頒布を差し止めるのが相当である。

     

    4 争点(3)(被告北川の責任)について

      前記2のとおり,本件出版行為は原告らに対する不法行為を構成するところ,認定事実によれば,被告北川は,被告会社の代表取締役として,本件出版行為を決定,実行した者であると認められ,被告会社の職務を行うにつき悪意又は重大な過失があったことは優に認められる。

      よって,被告北川は,原告らに対し,会社法429条に基づく損害賠償責任を負う。

     

    5 争点(4)(損害額)について

      原告らは,被告らの本件出版行為によって,実名,住所及び生年月日等の個人を特定できる情報とともに,原告らがテロリスト又はその関係者であるかのように記載した書籍が一般に頒布され,名誉及びプライバシーを著しく侵害されたということができる。また,認定事実によれば,被告会社は第1次仮処分決定及び第2次仮処分決定の送達を受けた後も,各仮処分決定に違反する本件出版行為を敢行したことが認められ,被告らの原告らに対する名誉及びプライバシー侵害の態様は悪質といわざるを得ない。

      このような事情を考慮すると,本件出版行為により原告らが被った精神的苦痛を慰謝するに足りる額は,原告らそれぞれについて200万円ずつを相当と認める。そして,原告らが本訴提起及び追行に要した弁護士費用の,うち,20万円をもって,被告らの不法行為と相当因果関係のある損害と認めるべきである。

      なお,原告らの損害は,被告らの本件出版行為によって生じた精神的損害であるから,同損害から国及び東京都の責任割合を控除すべきであるとの被告らの主張は,採用することができない。

     

    6 結論

      よって,原告らの請求は主文掲記の限度で理由があるから認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法64条本文,61条を,仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。

     

     

    東京地方裁判所民事第43部

    裁判官 鎌野真敬

    裁判官 手塚隆成

    裁判長裁判官萩原秀紀は転官のため署名押印することができない。

    裁判官 鎌野真敬


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